知らないおじさんと2人きりでローマの休日をを見せられて「大人になればわかるよ」って言われた話
とても寒い冬の日だった事を覚えてる。
高校の授業が終わり、会わせたい人がいるから早く帰ってくるように、と両親に言われて普通に自宅に帰ったある日。
家には両親と知らないおじさんがいて、その知らないおじさんと両親に「見せたいものがある」と言われ、玄関から1番近い1番寒い部屋に連れていかれた。たぶん17歳、高校2年生くらいの時だったと思う。
母はおじさんに「お願いします」と言い部屋から出ていった。父は特に何も言っていなかったと思う。
わたしの地元は東北で、雪は降らない地域だけどやっぱり冬になるとそれなりに寒い地域だ。
1番寒いその部屋には灯油ストーブが1つあらかじめつけられていて、それが暗い部屋で煌々と赤く煌めいていたのをよく覚えている。
暖房器具はそれだけだからこの部屋寒いんだよなー、何するんだろ…とわたしはぼんやり思っていた。
おじさんはわたしにそこに座って、とテレビの前に座るように促した。
「ローマの休日って見たことある?」
名前は知ってるけど見たことのなかったわたしは首を横に振った。
「これ、昔の映画なんだけど、とてもおもしろいよ。一緒に見よう」
「白黒だから最初は違和感があるかもね」
おじさんは楽しそうにわたしにそう話して、持参していたと思われるローマの休日のDVD(今となってはほんとうにDVDか自信なし)を再生し始めた。
字幕だったか吹替えだったか、もうそんな事はちっとも覚えていない。
わたしはなぜ知らないおじさんとローマの休日を見てるのか、それすらよくわからない寒い部屋。
わたしは何をしているんだろう…何をされてるんだろう…寒いな…ずっとそんな事を考えていた事だけは覚えている。
ストーリー的にはまあまあ面白かったし、オードリー・ヘップバーンはとてもかわいい。だけど自分が何をしてるのか、何をされてるのか、何が目的なのか全くわからない118分。本当に長い118分だった。
ローマの休日が全部終わるとおじさんはテレビを消し、わたしの方に向かって正座をして
「ハルカちゃん、わかったかい?」
と言った。
わたしには何を言ってるのか全くわからなかった。
わたしは正直に「よくわかんないけど、おもしろかったよ」と言った。
おじさんはそうじゃなくて、と前置きをした上で、
「いいかい、ハルカちゃん。アン王女は現実に帰って行ったよ。そろそろハルカちゃんも現実に帰ってくる頃なんじゃないのかな?」
とわたしの目を真っ直ぐ見て言った。*1
当時のわたしは、親への不信感から家に帰るのが嫌で、夜遅くまで彼氏や友達と遊び、1度帰っても夜中に家から抜け出してまた遊びに行くような生活をしていた。
高校へもほぼ遊びに行くだけで勉強のべの字もしないような生活。
おじさんはそんな生活はやめて、ちゃんと帰ってきて、ちゃんと勉強をしたらいいんじゃないかい?というような事を言いたかったんだと思う。
いや、そう直接言ったような気もする。あまり覚えていないけど、そんな事を言いたかったのは間違いないと思う。
わたしは
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
というような事を返したと思う。
だってほんとうに意味がわからなかったから。わたしが帰りたくないのは現実逃避してるからではなくて、親への不信感、それをまるまる無視しての現実に帰りなさい発言。本当に意味がわからなかった。
頑なにわかることを拒否するわたしにおじさんはちょっと困った顔で「大人になればわかるよ」と微笑んで部屋から出ていった。
母はおじさんに「本当にありがとうございました」とお礼を言い、おじさんを我が家から見送った。
そして母は
「あの人ね、色んなことをやってる人で占い師もやってるんだって。わたしとハルカのことも見てもらったよ」
「ハルカは愛情の受け皿が小さいんだって、だからすぐに溢れちゃう。そして、わたしの愛情は多すぎるんだって。だからハルカにはわたしの愛が多すぎてすぐに溢れちゃうって言われたの、だから反抗的になるって」
そう笑顔で言った。
30代も半ばに差し掛かって社会的には十分に大人になったと言える今(やってることはスプラトゥーンとかポケカなのでたいして子供の頃と変わってないけど)、あの時の出来事とおじさんに言われた事をスっと思い出して、やっぱりなんだったのかわかんねえな、と思ったので書いてみた。
そしてあのおじさんはなんだったんだろう。あのおじさんは今も元気にしてるのかな。
真相は全て闇の中。
わたしは今も夢の中にいるのかもしれないね。
*1:ストーリーわからない人はググッてね